『Last Labyrinth』SPECIALファンミーティング:オフィシャルレポート

Kickstarterのバッカーミッションの特典として開催された『Last Labyrinth』SPECIALファンミーティング、その様子をライターさんにオフィシャルレポートとしてまとめていただきました!

 2019年12月1日、都内サウンドインスタジオにおいて『Last Labyrinth (ラストラビリンス)』のリアルイベント「Last Labyrinth SPECIALファンミーティング」が開催された。
 イベントでは、応募者の中から抽選で30名のファンが招待され、本作テーマソングのミニライブに開発陣を交えてのトークセッション、設定資料の展示と、たくさんの内容が盛り込まれたものとなった。今回は、そんな本イベントの内容を抜粋してお届けする。

会場を『Last Labyrinth』の世界に誘う生ライブ

 まずはじめに登場したのは、作中でプレイヤーと行動を供にするカティアの声を演じられているステファニー・ヨーステンさん。
そして、本作のサウンドデザイナーである花岡拓也さんを含めた5人の奏者によるテーマソング「Last Labyrinth」の生ライブによってイベントの幕があがる。この曲の歌詞は日本語でも英語でもない、『Last Labyrinth』独自の言語になっていて、意味を理解できないながらもステファニーさんの歌声が耳に残り、幻想的な演奏も相まって会場内を『Last Labyrinth』の世界へと染めていった。

音楽、ゲーム、キャラクター、それぞれの視点で語られるトークセッション

 ミニライブを終えてからは、開発スタッフによるトークセッションがスタート。なお今回のトークセッションでは、事前にユーザーから開発スタッフへの質問を募集し、それに答える形で進行された。
 まず最初は「『Last Labyrinth』を彩るサウンド」をテーマに、本作のディレクター兼プロデューサーである高橋宏典さん、テーマ曲の作曲・編曲を手がけた菊田裕樹さん、そしてミニライブで素敵な歌声を披露されたステファニーさんと演奏された花岡さんを交えての音楽に関するトーク。
 音楽に関する質問で多く寄せられたのは、テーマソングである「Last Labyrinth」がどのようにして作られたのかというもの。これに高橋さんは「個人的に菊田さんの楽曲が好きで、Twitterでの繋がりがあったので『曲を書いていただけませんか?』と、いきなり送りました」と語る。それに対し菊田さんも「もらった文面は礼儀正しいんだけど、そこから情熱が伝わってきた」と、当時の印象を話し、さらには「最初に高橋さんと打ち合わせをさせていただいた最中に、曲が自分の中に降りてきて、既に完成していた」と語り、高橋さんを驚かせていた。
 ステファニーさんへは、カティアが話す本作独自の言葉についての質問があり「謎の言葉なので歌詞を覚えるのが大変で、曲の収録の時は意味を確かめながら気持ちを込めました」とコメント、菊田さんも「独自の言語で歌を作るって、正気か?って思いますよね(笑)」と高橋さんを追及する場面も。
 中には、作中で流れる環境音に関する質問も寄せられ「実在しない罠の音はどうやって作っているのでしょうか?」といったユーザーからの疑問に、花岡さんが「開発された映像を元に、メカニズムと材質に罠を分解して、ライブラリを組み合わせています。たとえば、モーター音だったら掃除機の音を加工して……」と語ると、高橋さんから「え? 掃除機? それ聞いちゃうとあんまり怖くない……」と笑いを誘うところも見られた。本作の肝でもある罠の音に関しては高橋さんも「罠の見た目もそうだし、音でもユーザーに怖く思ってもらわなければいけないので、どのように演出するかで、花岡さんに嫌な音をリクエストしました」と語った。
 また、このタイミングで高橋さんからテーマソング「Last Labyrinth」の配信開始がアナウンスされ、既に各種音楽配信サイトで楽曲を楽しめるようになっている。さらに、菊田さんからは12月28日から31日にかけて東京ビックサイトで開催される「コミックマーケット97」において、「Last Labyrinth」ジャズアレンジの頒布が行われることが明らかに。ちなみに菊田さんのサークルは大晦日である12月31日(火曜)に参加されるとのこと。

VRならではの開発陣の苦労

Photo by Suho Kim

 続いてのテーマは「死の館」。ここからは本作のリードエンバイロメントアーティストである草場美智子さん、レベルデザイナーを務める雨森梓さんとパク・デゴンさんが加わり、プレイヤーとカティアを恐怖させる死のギミックや謎解きに関するトークが行われた。
 ユーザーからの「作中の謎解きやパズルは誰が考えているのか?」という質問に、雨森さんは「みんなでネタ出しをしてから、高橋さんに見せて『これがダメ、これがいいんじゃない?』というのがありながら決めていきました」と前置きをしたうえで「高橋さんからのオーダーで『簡単そうに見えてひっかかっちゃう仕掛けが欲しい』と言われて苦労した」と語った。ちなみに、その高橋さんがオーダーした仕掛けは「ローラーの部屋」に組み込まれていることも明らかとなった。また、パクさんは「VRでの開発環境が初めてだったので、2Dの画面上で『面白そう!』と思って提案しても、実際にVRで作ってみると面白くならないことがありました」とコメント。背景制作を担当されている草場さんからは、キャラクターの動きによっては表現できないギミックの修正提案や、雰囲気そのものが決まっていない部屋の背景作成のやり取りが語られ、高橋さんからも「スタジオのみんながPCモニターとVR画面を交互に見るから、だんだんヘッドマウントディスプレイを頭の上に置くのがうまくなってきた」と、冗談交じりに話すVRゲーム開発の苦労で盛り上がる場面も見られた。
 また、本作をプレイしたユーザーの中では、仕掛けを解くのに失敗するたびに見せられるカティアの様子に心を痛める人も多く、それに関して「カティアを苦しめる罠を作った人の顔が見てみたい!」という質問があると、一同の視線が雨森さんに集中。すると雨森さんは「カティアちゃんを苦しめたいわけじゃないんです。もし自分がこういう目にあった時に、どういう死に方をしてみたいかを考えたんです!」と、活き活きとした笑顔で語っていた。さらには、死のギミックや暗めの雰囲気も相まって、度々ホラーゲームと言われる本作について「このゲーム、ホラーですよね?」という質問に高橋さんは「ホラーじゃない……」と言葉を濁すが、ステファニーさんから「ちょっとホラーですよ」とツッコミが入ると「ホラーが苦手な人向けのホラーということで」と笑う場面もあった。

 そんな中、カティアとして色んな死の体験を演じてきたステファニーさんに印象的な罠に関する質問があると「大変な死に方をする部屋もあるけど、ヘビが出てくる部屋はビックリしたけど笑えました」とコメント。他にも、パクさんはご自身が担当された鏡で光を操る「恋人の部屋」、雨森さんは何度も調整を繰り返してこだわり抜いた「列車の部屋」、草場さんはVRならではの恐怖体験が味わえる「虫の部屋」を印象的な罠として挙げていた。

カティアの変遷とファントムの存在感

 3つ目のトークセッションでは、カティアのキャラクターデザインとモデルを担当された田中達麻さん、ファントムのキャラクターデザインとモデルを担当されたタバリ・キミアさん、リードアニメーターを務める福山敦子さん、アニメーション制作やツール作成を行ったアレクシス・ジャスミン・ブロードヘッドさんが参加し、「カティアという存在」をテーマに、カティアとファントム、2人のキャラクターについて語られた。
 本作のヒロインであるカティアに関して、高橋さんが2016年に作られたプロトタイプや初期キャラクターデザインに触れると、田中さんが「仮で作ったカティアの3Dモデルを高橋さんに見せたら『ピンクの靴を履かせたい』と言われて驚いた」と発言。「ピンクの靴と緑の髪は当時のチーム内で大不評だった」と高橋さんは語る。今でこそカティアのデザインは緑髪に白い服、ピンクの靴にリボンで完成されているが、そこにいたるまでに彼女には色々な変化があったようだ。ちなみに、カティアの腕に巻かれたリボンは田中さんのアイデアによるもので「上半身にもピンクを足したことで、カティアのデザインが普遍的なものからあまり見ないデザインになっていった」とのこと。
 カティアの動きについても言及があり「1回目の収録より、2回目の収録の時のカティアがすごくかわいくなった」とステファニーさん。その理由について彼女のモーションを作成した福山さんは「最初、カティアは手を開いていることが多かったけど、自分の中でグーが流行って、途中からカティアにも取り入れている」とコメント、ステファニーさんも「カティアが考える時の仕草がかわいい」と同じポーズを披露する場面もあった。
 そして、カティアとプレイヤーを追い詰める存在であるファントムについて、キミアさんは「ホラーゲームじゃないと聞いていたので、ファントムは『怖いキャラクター』より『謎のキャラクター』を意識していた」と語り、暗い背景の中で黒い姿のファントムがきちんとVRの画面で見られるように調整する難しさについて説明した。劇中のファントムの仕草に関する質問があると、モーションを担当しているアレクシスさんから「ファントムの動きには意味があり、わざと不器用にしている」とコメントを残している。

 最後に、カティアやファントムに関するお気に入りの仕草について質問があると、アレクシスさんは「カティアと『どうぶつしょうぎ』をする部屋で、ファントムの細かい仕草を見て欲しい」とコメント、福山さんは「ゲームに疲れたら、後半の基点になる『世界の部屋』で、カティアをソファーで休ませてみてほしい」と語った。また、キミアさんは「ファントムが登場したら、ぜひファントムと車椅子に縛られている自分(プレイヤー)を見比べて欲しい」と物語に踏み込み、田中さんは「僕は『ICO』の大ファンなんですけど」と前置きすると「福山さんの作ったカティアの首の振り方を見たとき『これだ!』と思いました」と熱い思いを打ち明けた。そして、カティアを演じられてきたステファニーさんは「ファントムの存在感が怖くて、ファントムがいなくなったときのカティアちゃんの優しさが安心できます」と語った。

実際にプレイしなければわからない感覚

まだまだ多くの質問が寄せられていたものの、あっと言う間に時間は過ぎ、閉幕の時間が近づく。
 最後は高橋さんから「『Last Labyrinth』はVR専用ということで、プレイしていただかないと伝わりにくい部分があり、プレイする前と実際に体験されてからで、本作に対する印象が変わったのではないかなと思います。まだまだ始まったばかりのゲームなので、ファンの皆さんには『こんな変わったVRゲームがあるよ』と広めていただき、応援していただければと思います。本日はありがとうございました。スタッフ一同、皆様に感謝しております」とコメントがあり、「Last Labyrinth SPECIALファンミーティング」は幕を閉じた。

■「設定をユーザーに押し付けるつもりはない」―SPECIALファンミーティングインタビュー

 イベント終了後、高橋さん、ステファニーさん、菊田さんの3名にインタビューが行われたので、最後に一連の内容を紹介。

――今回のイベントを終えられての感想をお聞かせください。

高橋さん:ファンの人たちは暖かいなあと(笑)
ステファニーさん:皆さん『Last Labyrinth』を早速プレイしてくれていて、ゲームで感じてくれたことや色んな反響を見ることができて嬉しいです。
菊田さん:こうして顔を会わせて話ができたのは、ゲームとプレイヤーとの距離感が近くていいなと思いました。

――トークセッションを実施して改めて気付いた部分などはありますか?

高橋さん:今回、イベントに併せてユーザーからご質問をいただきましたが、カティアやファントムに対して、こちらが思っている以上に愛着を持っていただいているなと感じました。作っている側として「愛着を持ってもらいたい」と思って出していますけど、実際に表に出てみないとわからないところなので、嬉しかったです。
ステファニーさん:スタッフの皆さんのお話も聞けて、みんな凄い愛を込めていて……細かいところまで一生懸命作っているのが伝わってきました。
高橋さん:(体験してみたい)死に方とか説明してくれたり。
一同:(笑)
菊田さん:『Last Labyrinth』の世界を表現するのとは別に「どんなゲームになるのかな?」って考えていて「血も涙もない作品になるのかな」と思っていたら、実際はそうではなく。今日の反応やプレイヤーの皆さんの声を聞いていると、とても愛情を持って接していらっしゃるので、僕も血も涙もないことしなくてよかったなと(笑)
高橋さん:トークセッションではあまり語りませんでしたが、「こういう感じの世界観です」って伝えて曲を作っていただいた時に、菊田さんから「こういう設定のつもりで曲を作りました」というコメントを初期の段階で頂いていて、実はそういう設定もエンディングに反映していて、菊田さんの曲をきっかけに『Last Labyrinth』の世界がより明確になった部分もあります。

――2016年にプロトタイプ版発表からこれまでで、ユーザーからの反響で印象深いものはありますか?

高橋さん:2016年のプロトタイプ版は「お客さんの反応を伺ってみよう」くらいのつもりで出したんですが「製品版いつですか?」「欲しいです」といった意見をいただいて、すごく後押しになりました。我々「あまた」という会社は基本的にゲームデベロッパーで、普段は大手のゲーム会社さんのブランドで世に出るタイトルの企画開発をしていて、自分たちで物をだしたりしたことのないまったく無名の状態だったので、国内だけでなく海外も含めて実際に応援していただける人たちがクラウドファンディングやSNSなどを通じて、こういった見える形になっているのは今の時代ならではというか、心強くて、勇気付けられました。
ステファニーさん:『Last Labyrinth』は怖い体験だけでなく、言葉が通じなくてもカティアとコミュニケーションを取れる感覚があって「VRでしかできない体験だ」という反応が多かったので、嬉しかったです。
菊田さん:最初の打ち合わせでプロトタイプ版に触れた時はまだ音楽がなくて「プレイヤーと作品世界の距離感が縮まりにくいな」と感じたのがあって、音楽を作ることでその距離感を縮める手助けが出来たかなと。VRが新しいメディアということもあるし、そこで表現されるものにも馴染みがないので、特別僕の音楽を印象的にっていうことではなく、プレイヤーがゲームの中に自然に入っていくことができたら、それが僕の一番役に立てたことかなと。

――作中で「どうぶつしょうぎ」をプレイする場面がありますが、取り入れようと思った経緯をお聞かせください。

高橋さん:身も蓋もないことを言うと、僕がいれたいなと思って入れたんですけど……(笑)。プレイしていただいた方はわかるんですが、重要なシチュエーションで「どうぶつしょうぎ」を使っています。元々は、そのシーンを描くためにオリジナルのゲーム作りも含めて「シンプルだけど奥深くて勝負に使える何か」を模索していたときに、たまたま「どうぶつしょうぎ」のルールを考案された北尾まどか先生と間接的な繋がりもあり、お話させていただきました。「どうぶつしょうぎ」を使うシチュエーション自体に賛否両論あるだろうなと思いつつも、プレイしてるうちに「コマを動かして王を取る」というルールはなんとなく理解できるんじゃないかなというところで、子供っぽいけど奥深い部分が真剣勝負にぴったりなのではと考えました。

――『Last Labyrinth』の世界観やキャラクターの背景を明言していないため、SNSでもユーザーが様々な考察を行っていますが、それらをご覧になられていかがですか?

高橋さん:にやにやしながら見てます(笑)。
一同:(笑)。
高橋さん:「カティア自身が何を言っているかわからない」とか「コミュニケーション取れているつもりだけど、実際にはわからない」というところと同じで、VRの体験としてエンディングを見て、それをどういう風に感じてもらうかは正直、お客さんごとに変わっていていいかなと。もちろん、作った側としては「こういう設定のつもり」というのはあるんですが、それを押し付けるつもりもあまりないですし、むしろいい考察があったら「そうだったんだよ実は」「それ頂きます」みたいなノリでもいいかなと思っています(笑)。あえて映像で提案した意味っていうのはそこにあると思っていて、逆に「モヤモヤしてすっきりしないからなー」と賛否両論あるかもしれませんが、そこは作り手のエゴみたいなもので「みんなに考えて欲しい」というところもあって、色んな考察を見させてもらっています。

――仮に主人公、カティア、ファントムになるとしたら、どの立場になってみたいですか?

高橋さん:えー、どれもやだなあ(笑)。
菊田さん:どれも死にますからね(笑)。
高橋さん:でもやっぱり主人公ですかね。あのシチュエーションだとしたら、自分の責任で脱出できるので。
ステファニーさん:プレイヤー側ですかね。プレイヤーは受け入れるしかないので。嫌な選択いっぱいしないといけないのが大変ですけど。
菊田さん:僕はカティアがいいかな。カティアはゲーム内だとすごくいい女の子ですけど、僕はそうじゃないので、イヤなカティアに、ウソを平気で付くみたいなカティアになってみたい(笑)。
高橋さん:違う選択肢を指差したり……。
菊田さん:服の色も違って。
高橋さん:ニセカティア(笑)。
ステファニーさん:そんなカティアちゃんいたらプレイするのイヤになっちゃいそう……(笑)。
菊田さん:それはそれで人気が出るんじゃないかと(笑)。

――『Last Labyrinth』は体験会も積極的に行っていますが、今後もそういった機会はあるのでしょうか?

高橋さん:年内はあと1~2回くらい、一般の方に体験していただける機会を予定しています。また制作スケジュールの都合で中々用意できなかった体験版が、各プラットフォームでも順次配信予定となっておりますので、体験会自体は年内で一区切りかなと。ただ、パソコンショップ「TSUKUMO(ツクモ)」さんの店頭に置かれている試遊機には引き続き『Last Labyrinth』がありますので、体験したい方はVR機器を取り扱っているツクモさんの店舗に足を運んでいただければ……って、ツクモさんがいないのに勝手に宣伝を(笑)。